人類のミライ

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脳裏にあの丸眼鏡とギラついた瞳、薬品の臭いが染み付いた白衣が浮かんだ。ウィリンは彼の事がそれ程好きではなかった。天才という肩書きのままにメロウに関する多岐の研究に没頭し、人類の反撃に貢献した偉大な人物である事は間違い無い。だが、彼の姿は西洋のお伽話に登場するような悪の魔女に通づる胡散臭さを感じていた。 テイラーはウィリンの肩に乗った膨らんだ革袋の存在に気が付いた。彼女はそれを指差し、首を傾げる。 「頼みの品ってもしかして…その革袋に入ってるんですか?」 「そうだな……見たいか?」 「はい、お願いします」 彼は死臭が漂うその口を開くと、その秘められた内部を彼女に見せつけた。 袋一杯に詰め込まれた桃色と黒ずんだ何か。小指サイズから拳大程の物もあり、中には白濁色の球体も紛れ込んでいる。独特の鉄の臭いを放つそれは網膜に映るだけで不愉快になる程だった。 「……これは」 「殺したメロウから剥ぎ取った生殖器官だ。あの野郎、通常時と寄生時の人体に起こる変化を更に詳しく観察したいらしくてな、俺に取って来させたんだ。上手く剥ぎ取れなかった物もあったけどな」 「凄い、ですね…」 「注文通り出来るだけ傷付ける事無く、綺麗な形を保って摘出した。まぁ、あの野郎に気に入って貰えるかは、分からないが」 メロウという魚類が発見されて約二百年。当初は遺伝子情報の解明などが進んでいたが、奴等が人類に寄生するようになってからの社会混乱及び文明崩壊により研究機関や設備、人材なども今では殆ど消失してしまった。     
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