人類のミライ

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疲弊した身体に鞭を打って男は夜の森を歩く。 背中には刃毀れした戦斧、そして大きく膨らんだ革袋。肉体を覆い隠す鉄の鎧は至る所削れており、メロウ達の血液で染まっていた。 闇の中は危険だ。奴等は日中外を出歩く事は嫌うが、日が暮れて夜になると途端に活発化する。それは奴等の生態が関係している。 メロウは元々海棲生物。乾燥に弱く、水源が乏しい砂漠などには滅多に出現しない。奴等が主に拠点としているのは常時湿度が高いような湿原や沼地、湖や沿岸部。其処さえ離れれば奴等の襲撃に遭う危険性は格段に下がる。 人類はその事を学び、近辺に水気が無く、メロウ達が軽々しく赴けないような地域に居を構える事で細々と生き長らえていたのだ。 「……冷えるな」 今は冬季真っ只中。昼間はまだ暖かいとはいえ、夜になると一気に気温が下がる。口の端から漏れる吐息は白みを帯びていた。 森を抜けると其処は切り立った崖が眼前に開いた。 そう、ここが男の目指していた目的地だ。男は息を大きく吸い込むと、その隆起の激しい岩肌に触れた。 すると、何処からか声が鳴り響く。 『あ、ウィリンさん。お疲れ様です』 それは若い女性の物だった。その口調は親しき者と接する時のように軟らかい。     
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