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宝くじで一千万円が当たった。みんなだったら何に使うだろうか。
当時大学生だった俺には、たくさんの使い道があった。色んな所に旅行に行きたかったし、車も欲しかった。寿司、焼肉をローテーションで食べるということもやってみたかった。
しかし、何を血迷ったのか、俺が一千万を使ってやったことは、ホームレスを『飼う』ことだった。
●
「すみません、お金に困ってませんか?」
橋の下にある段ボールハウスを俺は訪ねた。出てきたのは、一人の年配の男。神と髭はボサボサに伸び放題。着ているものは汚れに汚れて、異様なにおいが漂っている。
「僕、お金たくさん持っていて。誰かのために使いたいなって」
男は俺のことを変な目で見て、何も言わずに段ボールハウスへと戻っていった。
なるほど。流石に怪しすぎるもんな、俺。
俺は持ってきていた一万円札を段ボールハウスに押し入れて、橋の下を後にした。
翌日、再び俺は段ボールハウスを訪ねた。
「お前は何がしたいんだ?」
男は会話をしてくれた。昨日の異様なにおいに加えて、今日はアルコールのにおいもした。段ボールハウスを覗き見てみると、酒瓶が数本並んでいた。
「この前、宝くじが当たって。使い道に悩んでるんですよ。なので、慈善活動でもしようかと」
「そんな話信じられるか。お前、ワシに何をしてほしいんだ?」
猜疑の目を向けられる。でも、信じられない人間から貰った金をアンタは使ったんだろ。
「ほんの気まぐれですよ。対価はいりません。なんとなく、お金をあげたいだけです。また明日、来ますね」
俺はポケットから万札を二枚ほど出して、男に握らせた。男は目を変えずにいたものの、握ったものを放すことはなかった。
段ボールハウスに通うこと三日目。
「お前さんが変な奴だということは分かった。こんな見ず知らずのホームレスに金を渡すんだからな」
日本酒の一升瓶を直飲みで傾けた。顔は赤く、目の焦点が合っていない。相当酔っているようだ。
「おじさん、こんな所に住むのは窮屈じゃない?ウチにおいでよ」
「何を言ってる。ここが俺の家であり、俺はここで死ぬと決めたんだ。誰が何と言おうと、動く気はない」
男はその場に座り込み、寝入ってしまった。
「やれやれ」
俺は三度金を取り出して、男の手に握らせた。
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