過去を語る

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私の名前はユリウス・デルクマン。現在目の前にいるのは父の弟であり、現在ランティス王国の騎士団長を務めているリク・デルクマンだ。 彼の家を訪ねて行った私とカイトを彼は胡乱な瞳を向けながらも受け入れ、話を聞いてくれた。その中で今、彼は過去自分に起こった出来事を私達に語ってくれようとしている…… 兄は優しい人だった、誰にでもいつでもにこにこ愛想がよく人に嫌われる事がない人だった。だが自分は知っている、兄はその笑顔の裏で自分が駄目だと思った人間をそっと自分や家族から遠ざけていた。 その理由が分からなかった頃はそれがとても不思議だったのだが、兄が駄目だと判断した人間は大概軒並みどこかおかしな人間だった。 自分達の父はこの国ランティス王国の騎士団長を務めており、父におもねり俺達子供達の機嫌取りまでしてくる大人は多かった。そんな大人達と兄は笑顔で接しているのだが、兄は自分が駄目だと判断した人間に対しては俺達弟妹に「あの人とはあまり親しくしてはいけません」とさりげなく忠告してきた。 その理由までは教えてはくれず、兄は曖昧に笑うのみなのだが、兄がそう言っていた人間達は軒並み何かしかの問題を起して失脚していった。 兄はいつでも笑っていた。怒っている所を見た事もない。唯一機嫌が悪いなと思う時が腹を空かせている時で、そんな時でも人当たりは別に悪くもなかった。 俺は兄が好きだった。 自分は兄が家族の中でも一番好きだったし、父の次に尊敬していた。 兄は間違った事を決してしない。 その雰囲気は少し頼りない所もあったが、中身まで頼りない男ではない事を自分は知っていた。それは家族愛を逸脱したものではなかったが、けれど、だからこそ、俺はあの時兄には裏切られたと思ったのだ。 そうあの時、家族の誰にも何も言わず姿を消した兄を探し出し見つけ出した時だ。 『私は帰らない、帰るべき場所はもうとっくに決めてしまった。それはお前達のいる場所ではない!』 兄はそう言って俺の手を振り払い一人の男を追って行ってしまった。 その時父はその兄が追って行った男のせいで投獄されており、自分自身もその兄の行動のせいで捕まり投獄された。
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