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「そういえば、貸した本は読み終わったの?」
「ん、いや、まだだけど」
「だめじゃん。ちゃんと読まないと」
「読んでるけど……。中々進まない日もあるんだよ」
アオシズはぼくに、毎日のように本を貸してくる。
それは純文学の日もあれば、推理小説の日もあったり、恋愛小説の日もあれば、ライトノベルの日だってある。とにかく毎日、何かしらの本をぼくに読めと強要してくるのだ。
どうしてアオシズがぼくに読書を強要し、そしてぼくもそれを受け入れているのか、正直もうきっかけなんて覚えていない。本を読むのは好きだし、店番をしている時に暇を潰すのも大変だから、借りれる事自体はかなりありがたいのだけれど。しかしそれでも、こんな風に一日一冊のノルマを達成できなかった時、怒られる事に対しては、ぼくは理不尽さを感じえない。別に読書なんて強要されてまでするものじゃないと思うのだけれど、そういうわけにはいかないのだろうか。たぶんここで反撥する事で、これ以上本を借りれなくなる事をぼくは恐れているのだろう。いちいち図書館に行くのも面倒だし、わざわざ買ってもお金がかかるし。いくらここが高円寺で、古本や古着に溢れている街だとはいえ、古い本や古い服は無限ではないし、何よりぼくの財布の中身が有限だ。
それに、分かっているのだ。ぼくはもっと、本を読まねばならない。
その理由を自覚しているからこそ、ぼくはアオシズから強いられている読書を拒否する事なく、受け入れている。
「そんなの言い訳。本を読む時間なんて、作ろうと思えばいくらでも作れる筈。ご飯を食べている時だって、歩いている時だって」
「ぼくは二宮金次郎かよ。歩きながら読書って、結構危険だろ」
「とにかく、そのぐらいのペースで読めってこと」
「……はいはい」
しかし、こんな生活に嫌気がさしてきているのも確かなのだった。
積りに積もったインプット。物語を、文字列を、キャラクターを頭の中に叩き込む生活。
今の自分に必要な事だとは分かっているのだけれど――結局ぼくは、そこから何も、生み出せていないわけで。
デビューを夢見たあの頃から、何も。
現実は、変わっていない。
そう、変わっていないのだ。
それでも絶対に、この一冊を読む事が、明日の自分にとって糧になると信じて。
……嘘でも、信じて。
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