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しかしここから先は、やりたくない事でもやらなければならない。 お金を稼がねば駄目だから。 生きていけないから。 それはぼくに、やりたい事が無いからだ。 ぼくは震えた。目の前の現実に。 布団を頭の先まで被り、そして目を瞑る。 そして思った。 これは、これからは、覚悟を決めなければならないんだ――。 やりたい事の無いぼくは、やりたくない事でもなんでもやって、我慢して、耐えて、そして死ぬまでを過ごさなければならない。そういうルートに入ってしまったんだと、やっと、気付いたのだった。 そんな風に布団から出ない生活を送り続ける事、数日。 いったいどれだけの日数が経ったのかは分からないけれど、ぼくはもぞもぞと、芋虫みたいに、布団から這い出る。 人間寝続ける事は逆に苦痛なのだという事を、この時初めて知った。 髪の毛はぼさぼさだし、髭も伸び切っていた。 あたりをぼうっと見渡していると、お腹がぐうと鳴る。 どんな状況になれど、それでもお腹は空いた。 ぼくはだらだらと服を着替え、外にご飯を食べに行く事にした。 果たしてそれが朝飯なのか昼食なのか、夕食なのか、時間を把握する事もなく丸くなり、眠っていたぼくには、まったく見当もつかなかった。 外に出てからスマホを確認すると、メッセージが数件入っていた。 それらは全て大学の友人からで、内容は総じて「学校来ないのか」という旨のものだった。ぼくは不思議だった。皆どうして、学校になんて行けているのか。就活という戦争に、立ち向かえているのか。やりたくもない事をして、お金をもらうための世界に、わざわざスーツを着て、髪型を決めて、敬語を使い、自分を採用してもらうのだ。 それともなんだ、ぼく以外の人間は、皆やりたい事がちゃんとあって、あるからこそ、それに沿った就職活動、生き方が出来ているという事なのだろうか? だとしたら――……。すごい、ぼくが、ただの馬鹿みたいだった。 他の皆はやりたい事がちゃんとあって、前を向いて生きていて、就職活動に対しても前向きで、つまりは人生に対しても前向きで。 なんだよそんなの、ずるい。 誰もそんなの、教えてくれなかったじゃないか。 それとも皆、「その事実」に対して、自分で気付いたという事だろうか? 誰に教えられる事もなく、自分で。 「……」 だとしたら、もう。 ぼくに言える事は無かった。 ただ一つ言えるとすれば。
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