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ぼくは生き方を間違えた。
それだけだった。
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上京してきて、高円寺に住むようになった理由を、ぼくはもう覚えていない。
大学が近かったというのもあるし、煌びやかな土地が苦手だというのもある。
だから六本木や青山はもちろん、人の多い新宿や渋谷も、あまり好きではない。
その点、高円寺はちょうどよかった。
人も、場所も、雰囲気も、どことなく古めかしく、懐かしい匂いがした。
もちろんそれはぼくの気のせいかもしれなかったのだが、しかし実際住んでみると、その直感は正しかったのだと分かった。
高円寺には、許された。
中途半端かつ、適当にぶらぶらと、まるで空に浮く雲のように生きる事を、許されていた。中には失礼だなと怒る人が居るかもしれないが、それでもぼくの目には、そんな風に生きている人が多いように見えた。
例えば昼間っから、居酒屋の外席で、酒をかっくらっているおじさんを毎日のように、大量に見た。わけのわからない、到底オシャレとは思えない恰好で、歩いている若者が大量に居た。街には古いものが溢れていて、例えばぼくは、古本屋で昔ちょっと流行っていたけれど、今はとても安価で売られている小説などを探し、買うのが好きだった。別にそのもの自体が変化、特に小説なんて、中身は変わらないというのに、時間が経過するという事で、ここまで値段が安くなってしまうというのは、かなり不思議だった。不思議だったけれど、ぼくのようなあまりお金の無い人間からすれば、安価で本が買えるというのはとてもありがたかった。本を読むのはいい暇つぶしになったし、物語の世界は好きだった。
さて。
布団から這い出たぼくが外へ出ると、あたりはまっくらだった。
夜だ。
空を見上げると、星が少しだけ見えたけれど、それは上京してくる前の、田舎で見た星空とは大きく違っていた。そう、ぼくは今、東京に居るのだ。東京の大学に通い、東京で暮らしている。
でもそれは自分で考えて選択したわけではない。
本当になんとなく、なんとなく、流されるだけ流されて、高円寺に住んでいる。
それだけだった。
季節は秋で、すこし肌寒かった。
ぼくはぶかぶかのパーカーを着ていたのだけれど、少しだけ首をすぼめるようにして、口元を隠した。防寒の意味もあったし、少し伸びてきた無精ひげを隠す意味合いもあった。
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