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荷物を運び込む作業が終わり、暇な時間ができる。インスタントコーヒーをピッチャーに入れ、水を注いで冷蔵庫で冷やす。コップに水を汲んで飲み、しばらく待つ。
新しい畳の匂いが爽やかだ。僕は前に東京のキャバクラで同時に二人の女性と仲良くなったことがある。一人が本命で、もう一人はそうではなかった。本命ではない方の女性は不機嫌になった。女友達ではなく「女は女」ということらしかった。友だちでしかない、という扱いを受けたから、不機嫌になったのだ。でも、僕はその子ではない子、つまり本命の子が本当に好きで、一生添い遂げたいと思った。でも、僕は当時四十二歳、今は四十四歳。
アイスコーヒーが冷えたので、コップに入れて飲む。お菓子がない。でも、買いに行くのは面倒だ。少し歩けばこんな町にもコンビニがあり、クッキーやらせんべいやらが手に入るだろう。でも、僕はむしろアイスコーヒーを飲んで大の字になることを選んだ。仕事。作家としての仕事。でも何より大事な、東京のあの子。
塩烏町の中心部に行くと、ビルが建っていて、その壁入口の横に「2F 文芸サークルあさがお」という木の札がかかっているのである。
二階(あさがお)にはウォーターサーバーがあって、冷たい水が飲めた。
「これ食べなよ」
あさがおの職員の福田さん(女性)がそう言ってバターサブレを一枚くれた。
「紅茶はありませんか」
僕は訊いた。
「あると思うよ」
福田さんは戸棚の中を探し、ティーバッグと小分けのコーヒーが入ったポリエチレンの袋を取り出す。
紅茶を飲みながらバターサブレを食べるひととき。
小さい頃、テレビで「くつろぎのひととき」とか言って、クッキーの宣伝をしていた。時代は変わった。今はネットの時代。ドローンは流行らないけど、この先新しいものも出てくるのかな。食品は、ぜいたく志向のものが増えたみたいだ。
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