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だって俺は学校の、健康診断に引っ掛かったんだ。
まあ、軽いものさ。そう言い聞かせて、学校から指定された病院へ、休日を用いて向かう。いつも通り待合室で説明を受け、簡単な問診に答えると、すっかり慣れてしまった検査が始まった。精々かかっても、一時間ぐらいだろう。予想通りとはいかなかったがまあそれでも、一時間と二十分程度で検査は終わり、診断結果が届くのもいつも通り後日と聞いて、受付から帰宅してもいいと声を掛けられるまで、広い待合室のソファーに掛け、垂れ流されていたテレビを、ぼんやりと観ていた。
まだ午前中の、昼にもまだ少し遠い中途半端な時間だったので、中年や年寄り向けの、退屈な内容だった気がする。まあまだ、いいか。そういうぼんやりとした内容で。各地の被害状況とか、戦況とか、どこがやられて、何を撃破したかとか、そういう恐ろしい情報はどうであれ、俺はあんまり見たくない。まだ、まだ遠いと言える地域の出来事だとしても、何だか着々と、俺達の生活を蝕んで来るような空恐ろしさを感じて、最近は、テレビそのものすら観ていなかった。
俺にはどうしても、負け戦にしか見えない。
連日敵を撃破したという、国からのニュースが流れているのにそう考えてしまうのは、単に俺自身が、健康診断なんかに引っ掛かってしまい病院にいるという、気が塞ぎがちになってしまうような状態にいるからだろう。
こんなありふれた理由で検査なんて、学校も随分神経質だ。そんな高が、軽い不整脈が見つかった程度で。大袈裟過ぎて欠伸が出る。まあ、子供を預かっている学校からすれば、そうは雑には扱えないか。
そう思っていると、覗き込むように左手からひょっこり現れた、若い女の人の受付から、帰宅していいですよと声を掛けられる。だからよっこいしょとおっさんみたいに、待っている間の退屈の所為で、重くなった腰を上げたのだ。
そこでぶっつりと、記憶が切れる。
その直前に、コツンと乾いた音がしたような気がするが。
次に俺という人間の記憶を、リアルタイムで形成し始めたのは、この薄暗い洞窟の中で、立ち尽くしているという現在だった。
目の前にはぽっかりと、緩やかな上り坂の果てに地上へ向かう、大きな出口が見える。もうほんの目の前だ。
外の景色は、どんよりとした曇り空で、時折ゴロゴロと、雷が走っていた。遠くに岩山のようなものがぽつぽつと見えるが、
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