chapter 1/?

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距離があり過ぎて霞んでしまい、それが正確な情報なのかは分からない。洞窟の中には、壁の両脇に松明(たいまつ)が設置されており、湿っぽく輝く黒い洞窟の肌を、とろとろと揺れる火で照らしていた。 「いやいやいやいや」  いやおかしいだろ。何だよ急に。夢か?  受付から声を掛けられるまでの待ち時間が(ひま)過ぎて、それは高二男子らしい夢想の世界へ飛び出しちまったのか?  いや確かに子供の頃は、テレビのヒーローとかに憧れて、俺もあんな風に必殺技とか撃てたらいいのになって、無邪気に胸を躍らせていた少年だったのは認めるが、俺はもう十七歳である。もうアウトだろ。 「お待ちしておりました勇者様!」  意識が切れる程の集中力でこの異常な意識を作り上げるってお前、とんだクリエイティブな野郎だな。進路は何かしらのアーティストか? 「お待ちしておりました勇者様!」  流石にこれは自分でも引く……。もっと大人になっていたと思っていたのだが、俺の意識はまだまだキッズだったようだ。いや本当にやばいな。ガキ過ぎだろ。家帰ったら、何か賢そうな本を読もう。太宰治? 江戸川乱歩? こんなのもし周りに知られたら、幾ら(かすみ)の奴でも「キモいよ兄さん」って、焼身自殺ものの軽蔑を……。 「お待ちしておりました勇者様!」 「うるっせえこちとら必死に状況を理解しようとしとんじゃ壊れた給湯器みてえに(おんな)じ事何遍も言うんじゃねえ!!」  隣にずっと立っていたとは分かっていたが、それ所じゃないので無視していた金髪の女に怒鳴り散らす。  だってこの状況もやばいが、この女の姿も非常にやばい。少なくとも日本での一般的な感覚では、計り知れない異質さを纏っているのだ。だって全身真っ白の、所謂シスターというような衣服に身を包んだ、俺と同じぐらいの歳の少女が立っているのである。こんな洞窟なんて、教会があるとは思えないような場所で。  どう見ても日本人には見えないが、身長はその年頃の日本人と比べてもやや小柄。そしてやっぱりお国が違うと、外国人らしい透き通るような白い肌と、金色の髪が言っている。瞳の色は青色で、どう見てもやっぱり、日本人ではなかった。顔は全体的に幼さが残る、甘い印象が特徴で、何故だが俺を見上げて、目をうるうるさせていた。 「……ああ。やっと届いたのですね。運命に導かれし勇者様にも、私の声が……!」
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