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確かに、と叶の言い分に思わず納得しそうになった竜紅人だ。
大将、こと叶はこの麗国の主だ。そしてかつては天に住まう魔妖の神であったのだという。
その昔、この『麗』という地は妖、魔妖の跋扈する荒れた土地だった。
人々はひっそりと隠れ住み、魔妖にいつ喰われるかと怯え、暮らしていた。
それを哀れに思い、人の為に堕天した慈悲深き神がこの地に降りると、魔妖は静かに身を潜めのだ。
何故なら彼は、天にいる時から魔妖の神であり、人を魔妖から救う神でもあった。彼は人を守るためにこの地に居着いたが、人は彼を国の主に祀り上げた。
だが、神とて妖。
麗国は妖を王にすることで、妖から身を守っている国なのだ。
天妖からすれば同胞でもあるが、人の為に堕ちた神でもある。しかも無条件で手を差し伸べてくれる相手ではないだけに、いきなり叶が現れたら反発するだろう。
余計な手を出して、全面戦争にならないことだけを祈るだけだ。
「……だーもう、分かったよ! 行けばいいんだろうが、行けば!」
少し癖のある、長い伽羅色の髪をかきむしるようにして、竜紅人がそう返事をすれば、返ってきたのは叶のにこりとした、なんともいえない笑顔だった。
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