0人が本棚に入れています
本棚に追加
本を横によけて私はカレーの皿を受け取る。持ってみて気づく。今日はいつもより重い気がする。「なんか……」口を開いたところで老人はサービスだと言う。
「食べきれないかもしれないですけど」
「なあに、残してくれても構わない」
老人は自身のカップにも珈琲を注ぐと、カウンターを離れ、横にある彼専用のロッキングチェアに腰かける。老人はよく、客が少ない時にそうやって休憩することもある。常連になるにつれて知ったことだ。
いただきますと声に出さず言って、私はスプーンでカレーをすくう。一口含んで喉が鳴る。この店のカレーはとっても甘い。すりおろしたリンゴと蜂蜜をたっぷりと入れていると老人は言っていた。辛いのは好きではないそうだ。たまに客からはもっと辛くしてと言われる事があるそうだが、味見のできないものは出せないと頑なに断ったとか。
ある意味、店の名物であるこのカレーを私はとても気に入っていた。辛いものも好きだが、ここのカレーは懐かしみがあるのだ。幼少の頃、最愛の人と二人で作ったカレーのような、古い記憶を蘇らせてくれる味が。
「少し味が違いますね」
一口、二口と食べ始めた所で気づいた。ルーが滑らかだと思っていたが、コクが足りないように感じたのだ。
「今日のは寝かせてないからな」
老人の声が飛んでくる。視線を向けると彼は目を閉じて身をイスに任せ揺れている。
最初のコメントを投稿しよう!