終末の週末

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 情報化社会だ。調べようと思えば、いくらでも道はあるのだろう。心の中にへばりつく感情に支配されないためにも、自身を隔離するべきだと判断して、捨てた日から、新たに情報端末を持とうとはしなかった。それが、自分にとって贖罪であるような気もしていた。だって、裏切り者は自分自身であったから。理由も、策略もない。一時の感情に身を任せたあまり、自身が引き起こした、つまらない出来事の顛末だ。 失って、ようやく気付くのだ。  こぼれ出る台詞は、誰に聞かせるでもなく、壁に消えればいい。溶けて、吸い込まれて誰の心も揺らさなくていいから。  だからもう少しだけ、吐き出させてほしい。 「ごめんね」 そして、さようなら。その言葉だけは、声にならないまま、痛みが走る。頭と胸元に。 耐えきれないと訴える様に滴が手元を濡らす。 胸元を抑えたまま、私は本を閉じた。視界が朧気だ。歪む世界の中、手探りで鞄の中を探り、ハンカチを取り出す。何度か目元を拭うとようやく視界が元に戻る。瞬きを繰り返して、私は息を吐いた。 頭と胸元がやけに痛い。いや、苦しい。『彼』との思い出が消えないからだろうか。ああ、きっとそうだ。 「大丈夫かい」  かすれた声が届き、私はびくりと肩を震わせた。顔を上げると。老人と目があった。心配の色が滲む瞳に、熱を帯びていた思考が急速に冷めていく。胸元の痛みなんて嘘みたいに消えてしまった。 「大丈夫です。すみません」  怪訝そうに老人は眉を下ろしたが口を開かない。おそらく彼にも何が起きたのかわからないのだろう。     
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