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願望は、奇麗な言葉で飾れないまま、彼にぶつけられた。
「……。不安因子は、確実になくしたいんだけどね。君らの願望を叶えるのも僕の仕事の一つだから」
一呼吸入れて、「分かった。約束しよう」と言葉が紡がれる。
「ありがとうございます」
私は大きく頭を下げた。
「うん。それじゃあ」
玄関口で彼は私を見た。背広姿の彼の姿に、どこか過去に見たような既視感に襲われる。心臓の鐘の音が速くなる。
「はい。さようなら」
自立型人工生命体、脳内記憶を一括して管理されている彼女らの事を学者たちはそう呼んでいた。古い名前を持ち出すならばアンドロイドとでも呼ぶべきだろうか。人とロボットの境界線が甘くなった現代では今はその名前を持ち出す人は少ない。人として扱われだした彼らを機器的な名前で呼ぶなと、どこから生まれた分からない愛護団体がうるさいとの理由だったか。
だが、彼らの考え方にも理解が示せると学者は考えていた。
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