終末の週末

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彼らはとても高価だ。一体破損でもしたら数十億の損失になる。一つの小さな街とは言え、管轄をまかれている以上、問題事は起こってほしくはない。 それに彼らが残す記憶は金になるのだ。他人の人生を味わえるのだから、それなりの値で取引される。 彼女らは、実験材料で、商売道具だ。 その考えを忘れてはいけないと学者は常々思う。彼女らと接する機会が増えていくにつれ、まるで彼らが人間のような錯覚に陥ってしまう。五年ごとに終末を迎える彼らの為に何かしてやりたいと心が動きそうになる。 だが、と学者は首を強く振った。幾分前、一人の女性の願いを聞いて今回みたいなことが起きたのだ。まさか、過去の記憶と接触する個体が現れるとは夢にも思わなかった。彼女の記憶は本になってどこか遠い場所に送ったつもりであったが、何の因果かこんなにも近くまで舞い戻り、現在の女性の元に来てしまった。 今回のような記憶の接触は、例年確認されている細胞記憶から過去の記憶が呼び戻され、自己混濁を招く恐れがあると警告がなされていた。 これ以上の甘さは大きな問題へと発展してしまうだろう。 彼女の本は回収し、処分しておかねばならない。勿論、今回の彼女の願いも当然かなえることもできない。人として生きていても、彼女らは。 拳に力が入るのが分かった。やり場のない怒りが身体を巡って、学者熱くさせる。     
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