終末の週末

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 首元の汗を拭いていると、老人はそう問いかけてきた。私は首肯し「車すら走ってなくて」と言葉をつづけた。 「終わり方をみんな探しているんだよ」老人はカレンダーに目を向けた。ハサミで切り取ったのだろう来週からの日付はもうなくなっている。「どいつもこいつも、背伸びして、特別な終わり方をしようとしやがる」  日常でいい。最後の日まで日常でいいのにと老人は言う。 「それで、今日もお店を」 「ああ。まあ、客は嬢ちゃん以外来ることはなさそうだけどな」  静まり返る店内を見渡して、老人はため息をついた。嬢ちゃんというのは私の呼び名だ。単に常連の中では私だけ若い女だからそう呼んでいるそうだ。一度名前を教えようとしたが、断られた。「俺の名前も知らなくていいし、嬢ちゃんの名前も知らない方がいい」その距離感が一番ちょうどいいと老人は言っていた。どんなに親密になろうとも、老人にとって私は客であり、それを取っ払ってしまうことは客商売をする以上はしてはいけないことだと。彼なりの哲学だ。 「それで、カレーでいいのかい」 「はい。あ、それと珈琲も」 「はいよ。ちょっと待ってな」     
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