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彼女の察しがよいのか、それとも彼女でも分かってしまうほどに、私は友人たちと常に行動を共にしていたのだろうか。多分、両方正解だろう。
「少しね」
私は濁した回答をした。別に馬鹿正直にすべて話しても、美咲さんはこの問題に関しては完全なる部外者なのだ。幾つかの助言ぐらいはもらえるかもしれないけれど、ただ巻き込むだけで完全な解決にはならないような気がしたからだ。
彼女は何も言わなかった。短く「そっか」とだけ呟いて、迷惑な好奇心を発動することもなかった。
「帰り道同じ方向だよね。一緒に帰ろうよ」
彼女の誘いに私は乗った。もう少しだけ、彼女が揺らす桜色の髪を見ていたかった。
雑多な帰り道。高層ビルと小さな商店が入り乱れたこの道は、いつでもごちゃごちゃとした印象を私に与える。少しでも目立つように刺激的な色で着色された看板が無数に並んで、道路と歩道の間には、景観を良くしようとしたのか、今は蕾しかつけていない桜の木が並ぶ。
アスファルトで舗装された道は、ローファーの音がよく響く。刻むリズムで歩幅の違いが分かるほどに。その足音を意識の隅で聞きながら私は、美咲さんと他愛のない会話を続けた。さっきのショーウィンドウの話から派生して互いの服の話とか、好きなアーティストの話、途中でクラスメイト達の話に飛んだり、美咲さんのアルバイトの話になったり。コロコロと話題を変えながら私たちは歩いた。その日、疲れていたことなんて忘れていたように私の口は言葉をよどみなく紡いでくれた。
「ああ、そうだった」
ビル群の道を抜け、緩やかな上り坂を中腹まで登ったとき、美咲さんは何か思い出したように立ち止まった。
「ちょっと寄りたいところがあるんだけどいいかな」
眉を下げて彼女は私に聞いてきた。急いでいるわけではない。多少の寄り道くらいならと、私は首を縦に振った。
帰り道を外れ、彼女の歩幅に合わせて歩いていくと、道外れのドラッグストアが見えてきた。
「買いたいものがあってさ」
尋ねない私に説明するように美咲さんは会話を展開させる。暖房の効いた店内に入ると私は息を吐いた。白くなった手をこすりながら、明日は厚めのセーターを着ようと心に決める。
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