桜色の二人

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「黒髪とか中学以来だし、少し初心に戻るのもいいかなって。初心に戻るほど長生きしてないけど、真面目な学校生活とかもなんだか楽しそうだし、……出来るかわかんないけど」  彼女の目を見てその言葉が強がりでもなくて本心なのだろうと思えてしまった。怖くはないのだろうか。きっと、今の彼女の立ち位置は失われるだろう。外側の私よりも、外に放り出されるのだ。今まで中心にいた彼女はどうなるのだろうか。どうにも私には想像もつかない。 「ま、変わってダメだったら元に戻せばいいんだよ」  笑って美咲さんは私の肩を叩いた。その手にはもう一つのカラー剤が握られていた。 「てことで、はい」  美咲さんはおもむろにそれを私に手渡した。 「え?」 「――ちゃんならいいかなって。真面目だし」 なんで私なのかと尋ねる前に、いまいち納得できない理由を彼女に言われる。 「あと、ついでに願掛け。いつまでもあの子たちの都合のいい人じゃいちゃだめだよって」  美咲さんの言葉がいやに胸に刺さった。交錯していた目線を思わず逸らす。知っていたのだろうか。居場所を求めていた私が辿り着いた場所がどんなところなのかを。 初めて、今日は友達と遊びの誘いを断った。いや、本当は分かっている。上辺だけの関係性を友達とは呼ばないことは。話したいことも思ったことも、彼女たちに合わせて押さえつけた。くだらない冗談で笑って見せた。好きでもない歌手について調べて、彼女たちが見ているドラマを見て、必死に愛想笑いを顔に張り付けてみた。それで友達になれるなら、私はそれで幸せだったはずだったのだ。だけど、私が望んだものはそこには無かった。いつの間にか使い勝手のいいような駒になっていたのだ。彼女達の機嫌を常に伺って、頼まれたことは断らず行った。それがいけなかったのだろう。気づいた時には、もう限界だった。一人でいたくない一心で、私はいつの間にか他の物を犠牲にしていたのだと半年以上かかって理解できた。  だけどもう、目を覚ますには遅すぎたのだ。覚ました目に見えたものは、冷たい彼女たちの視線と「もういいよ」との突き放した言葉だけだ。自分が作った幻影が消え去って、彼女達との距離だけが見えてしまった。
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