桜色の二人

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明日からおそらく私は一人になるだろう。漠然とそう考えながら帰り道を歩いていたのだ。美咲さんのことを思い出したのはそのせいだろうか。皆の中心で、自分自身、ありのままを出しても誰にも嫌われなくて。そんな彼女に私の話をするのはとても嫌だった。違いがあると分かっているのに、その違いが明確なものになってしまいそうで。ごまかしていた嘘が崩れ去ってしまいそうで。 ああ、そうだあの心の中で煙った感情の呼び名は。 「大丈夫、この色は私が持っているから。いつでも呼んでいいよ。きっと元に戻してあげる。だから私の色は――ちゃんに持っていてほしい」  再び目線が合う。先ほどの可愛らしい笑みはどこにも見当たらなくて真剣に、彼女は私だけを見ていた。 「どうして?」  主語のない問いかけを私は美咲さんにぶつけた。 「友達だから」  虚を突かれた思いだった。美咲さんとはただ席が隣なだけのクラスメイトで、少し話すだけの仲で、立ち位置など違う、遠い違う人間でそれで…… 言い訳を探した。記憶を辿って、思い返して思い帰して。 そこでようやく、彼女だけが私を下の名前で呼んでくれていたことに気付いた。 「本当に?」 「嘘じゃないよ。これから真面目になる予定だし」  震えた問いの答えは、明るい華やかな彼女のままの声で帰ってきた。 私でも変われるかなんて言葉は飲み込んだ。変われなくても元に戻るだけだ。彼女がきっと戻してくれる。 「……似合うかな」 桜色のカラー剤を握りしめて、私は美咲さんの答えを待った。 「うん、絶対」 「信用ないなー」 「これから真面目になるから。信用あるって」 互いに互いの髪色のカラー剤を握りしめて笑う。 「桜色の桜ちゃん。これは絶対似合うよ」 悪戯な顔で彼女は、私の名前を呼んだ。 桜が芽吹く頃はいつだったか。具体的な日時を曖昧に記憶したまま、ただ一人でいたのを覚えている。少し遠くの地へ行ってしまった友人のことを思い出しながら。  都市化は歩みを大幅に進めて、小さな商店はほとんどなくなった。雑多な帰り道は整理され、植えてある桜の木が映えるようになった。   相変わらずなのはこの髪型を崩していくビル風だけで。 学校に着いたら乱れた髪をまた整えようか。 風に乱れていく桜色の髪の毛を見てそう思った。
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