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とりわけ移植の費用は莫大だ。健康保険が利いたとしても、手術そのものへの手出し、その後に飲む薬や通院代も、先が見えなければ額は青天井だ。
優弥はエンジニアを辞め、佳樹の命を繋ぐ手段を組み上げた。自分が死んでも、佳樹に対し、確実な実行とバックアップが得られるように。
それは、エンジニア時代の優弥が組んだシステムのように正確に実行され、佳樹は今ここに生きている。
こんなにも完璧で、優弥の大きな愛を受け取っていたなんて。
「優弥……おまえカッコ良すぎだよ……」
優弥は常に学習や調査を怠らず、新技術を吸収していた。仕事もプライベートも、優弥になら安心して背中を預けられた。
ヘビースモーカーのくせに、佳樹の前では絶対にタバコを吸わず『自分も吸わないんだから、おまえも我慢しろ』といって佳樹からタバコを取り上げていた。
仕事をしている佳樹の肩に顎を乗せて、プログラムの動きを確認していたことを思い出す。
ずっと部屋から出ずキーボードばかり打っていると、なにやらおかしな疲労感に襲われる。
たまに背後からぎゅっと抱きしめられながら、熱っぽくかすれるような低い声で「佳樹、そこだ。…そう」と耳元で囁いて指示を出す優弥に心臓が震えた。
仕事のどさくさでのあの抱擁は、佳樹に好きだと言い出せなかった、彼の無言の独占欲。
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