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時刻はすでに午前二時を過ぎていた。
古い雑居ビルが立ち並んでいるが、そのどれも明かりは灯らない。深夜の暗闇を取り込んだ窓ばかりが並んでいる。開発が途中でストップされ、長らく放置されている地区だ。縄張りにしている組織がいるため、まともな人間ならば、寄り付くことのない場所である。
建物の間にのびる石畳の小道に俺たちはいた。
俺も明石も、身体中に緊張感をはりめぐらせていた。
ほんのわずかな距離を置いて、目標の男と対峙している。
相手の顔にも張りつめたものが伺えた。ほんの少しでも隙を見せれば速攻で逃げられる。無神経な呼吸や動作だけで乱してしまう、繊細な均衡が俺たちと男とのあいだに存在している。
ナイフの刃さきが牽制してくる。
「組織の、クローバーの、追っ手か?」
不意に投げつけられた言葉の意味がわからない。
俺たちはこの男を追っていた。縞蛇組という、この周辺を縄張りにしている組織からの依頼だ。どうやら男の言う組織とは、縞蛇とはちがうところのことのようだった。
俺も明石もなにも言わないでいると、男は察したように、わずかに肩の力を抜いた。二対一という構図は変わらないにも関わらずだ。
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