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そうでなければ、警戒するほどでもないと言わんばかりの態度。男の顔からそれまでの強張りが溶けて行っていた。 そのとき明石が、何かに気づいたように、上の方を見た。 「……なんの音だろう」 ちいさく呟いた。 男の動きに注視しながら、耳を澄ませる。 遠くのほうから金属質な甲高い音が聞こえてくる。夜以上の冷たい響きが人気のないゴーストタウンのような街に鳴り響いている。 何の音だ? 男の耳にも届いて来たようで、目障りそうに眉根をよせていた。 しだいに近くなっている。 カラカラカラ、と、金属のような音質は不規則に音程を上下させている。 音はさらに接近してきて、俺たちのいる路地に面した通りに響いている。 引きずっている。 何者かが、何かを引きずって移動してきている。 音が上下に跳ねるのは、歩道の石畳の凹凸を拾い上げているせいだ。無人の夜の街にこだまするものの正体もわからないまま、さらに別の音も聞こえて来るのに気が付いた。 踵が地面を叩く固い音だ。 革靴やブーツではない。もっと鋭い、凶器のように尖ったハイヒールの足音だ。地面に穿つように確固たる力強い足取りを感じられる。 金属製のなにかを引きずった女がすぐそばまで迫っているという、輪郭曖昧のこの事態に鳥肌が立つ。 路地から顔を出したらたぶん出くわす。 はたして人の形をしているだろうか。     
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