きみのねがい

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 最近、僕を苛立たせるものが二つある。一つ目は、ひかりが最近始めた就職活動というものだ。  幼い頃から、ひかりは実家の味噌蔵を継ぐと決められていた。本人もそれを受け入れていて、自分の家で作られた味噌の話を自慢げにしていたこともある。  しかしここ最近、ひかりは親に内緒でその就職活動とやらを行なっている。きっかけは何なのか僕にもよく分からないが、彼女は時たまスーツという堅苦しい服を着て遠くの地まで足を伸ばしているのだ。  ただ、ひかりには悪いけれど、どれだけ努力しようともその就職活動が成功に終わることは無いだろう。  なぜなら僕が、ひかりが出した履歴書とやらに細工をしたり、彼女の乗った電車を遅らせたりと、細々とした邪魔をしているせいだ。  それもすべて、ひかりをこの場所に留めておくためだ。僕の神域でもあるこの地にいる限り、彼女を守ることができる。深く干渉しすぎるとまた咎められてしまうかもしれないが、これくらいは許されるだろう。ひかりがこの地から離れてしまえば、彼女の「生きたい」という大きな願いを叶えることができないから。
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