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「じゃあね、ひかり! あっ、もしかして今日はデート!?」
「えへへー、そうだよ。ドライブに連れてってくれるんだってー!」
「へえ、いいなー! 今度こそ長続きするといいね!」
「大きなお世話!」
友人と建物から出てきたひかりは、嬉しそうに手を振ってから歩き出した。その笑顔を眺めながら、僕は思ってもいないくせに「ごめんね」と謝った。きっと今度の恋人とも長続きしないよ、と鼻で笑って。
「あれー、おかしいな……ガソリン、入れてきたはずなんだけど……」
「え……車、動かないんですか?」
何度も鍵を回したり、車輪の様子を見に行ったりしている男を見て、ひかりが不安げに眉を下げた。今日もひかりは、似合いもしない踵の高い靴を履いている。
「ごめんね、ひかりちゃん。前もこんなことあったし……」
「い、いえ、私こそすみません……」
男は疲れたように大きくため息をついて、首を傾げながら小さな機械を弄っている。どうやら、どこかに電話をかけているようだ。ひかりはそんな男を見つめて、居づらそうに縮こまって立っている。
こうなったのは言うまでもなく、僕が邪魔をしたせいである。
もう一つ僕を苛立たせているのが、こいつのようにひかりに近付いてくる男共だ。
何を考えているのか、ひかりはこの男を「かっこいい」などと言っているけれど、こいつはひかりを獣のような目で見ているだけだ。決して愛おしく思っているわけではない。少なくとも、僕の目から見たらそうだ。
こうしてひかりの色恋を邪魔するのも、もう慣れたものだ。おかげでひかりは二十歳になってもまだ嫁の貰い手もなく、その純潔を保てている。これに関しては、ひかりの両親にも感謝されて然るべきだと恩着せがましく思っている。
逢瀬のたびにこんな目に遭うのだから、男たちはすぐにひかりから離れていく。所詮、その程度の想いなのだ。
僕はそれを証明する手助けをしているのだと、自分に言い聞かせていた。決して、嫉妬心から嫌がらせをしているわけではない。神である僕がそんな人間のような行いをするわけがないと、言い訳を重ねながら。
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