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「だからっ、蔵は継がないってば! もう就職先も決まったんだから、この家から出て行くの!!」
「そんな勝手なこと言って、許されると思ってるのか!? ひかりが継がなかったら、うちの蔵はどうなるんだ!!」
ひかりと父親の言い争う声が、今日も聞こえてくる。父親がどう説得してもひかりは聞く耳を持たず、「家を出て働く」の一点張りだ。そんな二人の様子を、母親が困惑しきった顔で見つめている。
僕がこの地を離れている隙に、ひかりはとある会社から就職の内定をもらってしまった。そしてその内定通知を両親に見せて、「もう内定もらったから、ここで働く」と言い放ったのだ。
家の味噌蔵を継いでくれるとばかり思っていた両親は寝耳に水で、当たり前のように猛反対した。僕もこの時ばかりは両親に同調して、聞こえもしないのにひかりに向かって叫んだ。遠くに行くな、ここにいてほしい、と。
しかし、そんな声がひかりに届くわけもない。意固地になったひかりは勝手に住む場所を決め、引越し業者を手配し、山の桜が咲く前にこの地を去って行ってしまった。
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