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あきまつり
「おーい、ひかりちゃーん! このスピーカーはどこに置くのー?」
「え? あ、えーっと、それはこっち側でお願いします! テントの下で!」
「ひかりちゃん、子どもたちに配るお菓子はこれでいいのかな?」
「あ、はい! たぶんそれで足りると思います!」
「ひかりさん! 手伝いに来たんですけど、何すればいいですか?」
「ありがとう! じゃあ、このダンボール運んでもらおうかな」
慌ただしく走り回りながら、あちこちから飛んでくる質問に答える。そんな私の胸には「実行委員 清里」という名札が付けられていて、それが表す通りこの催しの実行委員である私は、落ち着いて一息つく暇すらない。
豊かに実った稲もすっかり刈り取られ、民家の軒下には連なる柿が見られるようになった頃。
秋晴れの空の下、今日はこの天足穂神社で何十年ぶりかの秋祭りが開かれることとなった。
「よっ、清里! 久しぶりだな!」
「あ、小泉くん! 久しぶり、来てくれたんだね!」
数年ぶりに会う同級生の男の子が、私の姿を見つけて駆け寄ってくる。中学の時から随分と背が伸びたようだが、その明るい性格は変わっていなさそうでほっとした。
「まさか、清里が率先して祭り開くなんて思わなかったよ。こんな寂れた神社でさぁ」
「あはは、色んな人に言われるよ」
「しかも社殿と鳥居まで建て直すなんてな! 聞いたぞ、一番多く寄付したのは清里だって」
「あー、それは……まあ、色々と事情があって……」
彼の言った通り、この秋祭りを復活させようと声を上げたのは私だ。そして秋祭りの復活と同時に、朽ちかけていた社殿と十年前の巨大台風で倒れてしまった鳥居を建て直そうと寄付を募ったのも、私が言い出したことである。
そして、なぜ私がこの天足穂神社──てんたるさんの復興にここまで尽力するのかといえば、その理由はもちろん千歳にあった。
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