あきまつり

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 十年前。  千歳とともにこの故郷に帰ってきたあの日、彼は私の前から姿を消した。魔法にでもかかっていたのか、はたまた幻でも見ていたのかと思ってしまうくらいあっけなく、私は一瞬のうちに何よりも大切な彼を失ってしまったのだ。  あの時から、それこそ涙が枯れるほど泣いた。心配した両親が「病院に行った方がいいんじゃないか」と本気で相談するくらい、私は延々と泣き続けていた。  しかし皮肉なことに、どれほど失意のどん底にいても、健康そのものである私のお腹はぐうぐうと鳴って空腹を知らせるのだ。  いっそのこと何も食べずに死んでやろうか、なんて馬鹿なことも考えたけれど、そんな私を引き止めたのは千歳のあの言葉だった。  ──生きて。  彼のその最後の願いを、私は無視することができなかった。  泣きながら、お母さんが作ってくれたおにぎりとお味噌汁をかっ込んで食べた。千歳のいない、その悲しい現実の中でも生き抜くことを誓って。  ただ、少しでも千歳がここにいたという事実を残したくて、私はこのてんたるさんの建て直しを思い付いたのだ。
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