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「こんな感じで置けばいいかな? ここの扉も、今日は開けておけばいいよね」
「はい、そうですね! ありがとうございます」
この秋祭りの実行委員長でもある自治会長さんと一緒に、奉納された野菜やお米を運ぶ。誰が持ってきたのか、酒瓶や乾麺の束もあって、千歳と一緒にうどんを食べたときのことを思い出してふと笑みが漏れた。
「そういえばひかりちゃん、古い社殿を取り壊すときも立ち会ってくれたよね。その時、鏡が出てこなかったかい?」
「えっ? あー、えっと、はい。一つだけ……」
「やっぱり、一つだけだったかぁ。あれは本来、二面で一対の鏡なんだよ。どこに行っちゃったんだろうなぁ、もう一つは……」
本当ですねぇ、なんて適当に相槌を打ちながら、「神様本人が売り飛ばしました」と言いたくなるのをぐっと堪える。堪えながら、やっぱり可笑しくなってしまって咳払いをするふりをして一人で笑った。
こうして、千歳のことを思い出して笑えるようになったのはここニ、三年のことだ。それまでは、彼のことを思い出すたびに涙を流していたから。
「さて、じゃあ日が暮れたら太鼓の演奏と舞の奉納を始めようか。天気予報で、夜から雨が降ると言ってたからね」
「そうですね。私、子どもたちに声かけてきます」
空を見上げると、遠くの方に少しだけ灰色の雲が見える。だんだんと日も落ちてきたし、雨に降られる前に片付けまで終わらせたいところだ。
自治会長さんに一礼してから、小走りで境内を駆け抜ける。近所の小学生たちに舞を披露してもらう予定だから、そろそろその準備をしなければならない。
少し前までは雑草が生い茂り、立ち入られることもなかったこのてんたるさんの境内に、今日は大勢の人たちが集まっている。この光景を千歳が見たら、何と言っただろうか。彼のことだから、「今日はやかましいねぇ」なんて笑いながら食べ物の屋台を物珍しそうに見て回っていたに違いない。
そんな想像をしながら、揃いの衣装を着た子どもたちの元へ走った。
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