ねがいのさきに

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 薄暗い参道を、私の持つ懐中電灯の光と月明かりだけが照らしている。つい数時間前までたくさんの人の声がこの境内に溢れていたが、今はただ虫たちの声が響き渡っているだけだ。  夜中の神社は昼間とはまた違って不気味な雰囲気さえ感じるけれど、てんたるさんだけは別だ。お母さんにはよく「若い娘が夜中に一人で出歩くんじゃない」なんて言われるが、この境内は気持ちを落ち着けるのにうってつけの場所なのだ。そもそも、もう「若い娘」に分類されるような年でもないし。  そんな自虐的なことを思いながら社殿の前に辿り着いて、持ってきたお味噌汁の蓋を開けて社殿の中に置く。一応お箸も持ってきたので、それも一緒に置いてから真新しい紅白の鈴緒を揺らした。夜中だから、近所迷惑にならない程度に控えめに。  そして微かに鈴が鳴る音を聞いてから、これまた控えめに柏手を鳴らして手を合わせた。  ──千歳。  今日は、秋祭りだったんだよ。千歳の神社にたくさんの人が集まって、今年の豊作を感謝して、太鼓や舞を見せてくれた。それよりも千歳は、奉納された食べ物や屋台の方に興味津々だったかもしれないけど。  目を瞑りながら心の中で千歳に話しかけていると、突然ぽつりと頬に水滴が落ちてきた。やばい、と思って慌てて目を開けたけれど、みるみるうちに雨足は強くなり、土の地面は一瞬で水浸しになっていく。 「うそっ、こんないきなり……!?」  確かに天気予報でも夜から雨が降るとは言っていたが、ここまで急に強い雨になるなんて。すぐに帰ってくればいいやと油断していたから、傘も持ってきていない。 「……どうしよう。雨が弱まるまで待つか、ずぶ濡れ覚悟で家まで走るか」  ひとまず社殿の軒下に入って、空を見上げながら考える。家までは全速力で走れば五分もかからずに着くだろうけど、この雨では確実に全身ずぶ濡れになる。でも、ここで雨宿りしていてもすぐに勢いが弱まるとは限らないし、帰ったらお風呂場に直行すればいいだけの話だ。  よし、と一人呟いて、パーカーのフードを被る。あまり意味はないかもしれないが、無いよりましだ。
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