ねがいのさきに

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 そして軒下から出て走り出そうとした、その瞬間のことだった。辺りが一瞬光に包まれ、そのすぐ後に耳をつんざくような轟音が響き渡る。 「ひいぃっ!?」  思わず大声で叫んで、両手で耳を塞いだ。バリバリという激しい音からすると、どうやら近くに雷が落ちたらしい。  その雷にすっかり怯んでしまった私は、頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。しかし、落ち着いて考えてみたらこうして軒先で雨宿りしている方が危険かもしれない。木の下や軒先にいて雷に打たれた人がいるという話を聞いたことがある。  でも、雷鳴が轟く中に飛び出していく勇気はなくて、私はちらりと社殿の扉を横目で見た。 「……き、緊急事態だから。お邪魔するけど、怒らないでね」  誰に言うわけでもないけれど一応断りを入れて、そろそろと社殿の扉を開ける。薄暗い社殿の中には、今日奉納したばかりのお米や野菜がずらりと並んでいた。  靴を脱いでから、社殿の中へと入ってさっと扉を閉める。格子窓の隙間から外を覗くと、さっきよりも大粒の雨が降り注いでいた。  これは本当に困った。三十路を過ぎてこんなことを言うのも恥ずかしいが、私は雷というものが苦手なのだ。急に空が光るのも怖いし、大きな音も嫌だし、それが自分に落ちる可能性があると思ったら恐ろしくて仕方ない。  早くやまないかな、とびくびくしながら外を伺っていると、ふと背後でぎしりと床が軋む音がした。 「えっ……?」  激しい雨のせいで床板が軋んだのかと思ったけれど、違う。その音は少しずつ私の方に近づいてくるのだ。ぎし、ぎし、と、まるで誰かが歩いているかのように。 「だ、誰か、いるの……?」  恐る恐る振り向いて、暗闇の中でじっと目を凝らす。だんだんと近づいてくる足音を聞きながら、私は自分でも気付かないうちに息を止めていた。  そして、足音は私のすぐそばまで来て止まった。格子戸の隙間から漏れる月明かりを頼りに足音の主を確かめようとして、私は目を見開いた。
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