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「ちっ、千歳は、なんで戻ってこれたの? 消えちゃったんじゃなかったの!?」
「うーん……僕自身も、消えたつもりでいたんだけど。急に祭囃子が聞こえてきて、その音を頼りに歩いてみたらここに着いたんだ。そもそも、ここはどこなの?」
「どこって、千歳の神社だよ! てんたるさん! 建て直したから、新しくなってるけど」
ずず、と鼻をすすりながら答えると、千歳はまた驚いて目を剥いた。
「建て直した、って……まさか、鳥居も?」
「うん、最近完成したの。それで今日は、ここで秋祭りを開いたんだよ」
目尻から溢れる涙を拭いて、私は胸を張ってそう答えた。千歳は私の背をさすりながらきょろきょろと社殿の中を見渡すと、もう一度私に尋ねる。
「僕の社と鳥居、直してくれたの? ひかりが?」
「言い出したのは私だけど、この辺の人たちみんなが寄付してくれたんだよ。てんたるさんが、このまま無くなっちゃうのは寂しいからって」
「ふうん……そっか……」
「あ、あと千歳が鏡売ったときのお金も使っちゃった。でも、あれがあったから鳥居まで直せたんだよ」
「そっか……そういうことか」
涙ぐみながら説明すると、千歳は何やら一人で納得して頷いた。
「ちとせ……? どうしたの?」
「いや。僕が今ここにいられるのは、そのおかげかな、と思ったんだ」
「そのおかげ、って……社殿を建て直したから?」
「うん。それと、その秋祭りだよ。祭祀に呼び出された神は、何があろうと出向かなければならないからね」
言いながら、千歳は社殿の床に並べられた供物に目を落とす。この地で採れた野菜や果物、お米、それに酒や乾麺などたくさんの供物だ。
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