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「……ってことは、秋祭りを開いたから、千歳は生き返ったの? それだけのことで……?」
「あはっ、生き返ったって。そもそも死んではいないんだけど」
「お、同じようなことでしょ!?」
「そう? まあ、僕も信じがたいけど……きっと、今日の一夜だけはこの地に降りることを赦されたんじゃないかな」
千歳と会えたことで浮かれていた私は、その言葉を聞いて再び息を詰める。
今日の、一夜だけ。
千歳と再び会えることができたのに、この時間はたった一晩だけで終わってしまうのか。
「今日、だけ……?」
「うん、きっとね。ふふっ、まるで織姫と彦星みたいだねぇ」
「そんなっ、呑気なことっ……!」
神様というものは、なぜこうも残酷なことを思いつくのだろう。
ついさっき嬉し涙を流したばかりだというのに、私はまた千歳の胸に顔を押し付けて泣いた。もちろん、今度は悲しみの涙だ。
千歳はそんな私の肩に手を置いて、優しく抱きしめてくれる──かと思いきや、逆に引き剥がして真正面から私の瞳を覗き込んだ。あの旅の中で何度も見た、好奇心に満ちた目をして。
「泣いている場合じゃないよ、ひかり。僕たちに与えられたのが一夜しか無いのなら、その一瞬を楽しまないと」
「ひっ、う……そんな、私、聞き分けよくない……っ」
「ふふっ、そうだったね。……ところで、ひかり。さっきから良い匂いがしてくるんだけど、あれはきみが僕のために作ってくれたの?」
あれ、と言って千歳が指差したのは、私が持ってきたスープジャーだ。蓋を開けておいたけれど、そこからはまだ湯気が立ち上っている。
「う、ん……そうだよ。余ったやつ、だけど」
「なんだ、余り物かぁ。まあいいか、きみが作ったものなら」
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