ねがいのさきに

6/7
前へ
/172ページ
次へ
「……ってことは、秋祭りを開いたから、千歳は生き返ったの? それだけのことで……?」 「あはっ、生き返ったって。そもそも死んではいないんだけど」 「お、同じようなことでしょ!?」 「そう? まあ、僕も信じがたいけど……きっと、今日の一夜だけはこの地に降りることを赦されたんじゃないかな」  千歳と会えたことで浮かれていた私は、その言葉を聞いて再び息を詰める。  今日の、一夜だけ。  千歳と再び会えることができたのに、この時間はたった一晩だけで終わってしまうのか。 「今日、だけ……?」 「うん、きっとね。ふふっ、まるで織姫と彦星みたいだねぇ」 「そんなっ、呑気なことっ……!」  神様というものは、なぜこうも残酷なことを思いつくのだろう。  ついさっき嬉し涙を流したばかりだというのに、私はまた千歳の胸に顔を押し付けて泣いた。もちろん、今度は悲しみの涙だ。  千歳はそんな私の肩に手を置いて、優しく抱きしめてくれる──かと思いきや、逆に引き剥がして真正面から私の瞳を覗き込んだ。あの旅の中で何度も見た、好奇心に満ちた目をして。 「泣いている場合じゃないよ、ひかり。僕たちに与えられたのが一夜しか無いのなら、その一瞬を楽しまないと」 「ひっ、う……そんな、私、聞き分けよくない……っ」 「ふふっ、そうだったね。……ところで、ひかり。さっきから良い匂いがしてくるんだけど、あれはきみが僕のために作ってくれたの?」  あれ、と言って千歳が指差したのは、私が持ってきたスープジャーだ。蓋を開けておいたけれど、そこからはまだ湯気が立ち上っている。 「う、ん……そうだよ。余ったやつ、だけど」 「なんだ、余り物かぁ。まあいいか、きみが作ったものなら」
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

746人が本棚に入れています
本棚に追加