746人が本棚に入れています
本棚に追加
私、清里ひかりの勤める会社は、サービス残業は当たり前、セクハラ・パワハラの横行するいわゆるブラック企業だ。
新卒で入社して約一年、私はよく耐えた方だと思う。だって、入社当時20人近くいた同期はもうとっくにこの会社に見切りをつけて、さっさと転職してしまったのだ。
辞めていった同期たちへの恨み言を、上司はただ一人残った私へ向けて投げつけた。最近の若者は根性がない、少し辛いだけですぐ辞める、ちょっと喝を入れただけで訴えると脅しやがって、等々。
私に言うな、なんて面と向かって言えるわけがなかった。私からしてみれば、早々に去っていった同期たちの方がよっぽど賢明だと思う。
私だってできることならそうしたかったけれど、この会社は尽く就職活動に失敗してきた私を受け入れてくれた唯一の場所なのだ。先の見えない就活をもう一度するくらいならと、私はこの劣悪な環境に耐えている。
でも、もう限界だ。
先日、取引先を巻き込んだ大きな発注ミスを犯した上司が、その罪を私になすりつけてきた。おかげで今日は早朝から方々に頭を下げて回り、行く先々で怒号を浴び、挙句の果てにはミスをした張本人であるその上司にまで怒鳴られた。お前のせいでこうなったんだぞ、と。
なんで私、こんなに頑張ってるんだっけ?
こういった理不尽な出来事なんて日常茶飯事のはずなのに、今日の私はふとそんなことを考えてしまった。
明日からもまたこんな日々が続くと思うと、胸の底から吐き気が込み上げてくる。夜中の12時、誰もいなくなったオフィスの窓に映った自分のやつれた姿を見て、私は名案を思い付いた。
そうだ、死んじゃおう。
このビルの屋上から飛び降りて、何もかも放棄してしまおう。そうすれば、明日からまた満員電車に揺られて酔うことも、理不尽な怒りをぶつけられることも、意味の無い接待で心を削る必要もなくなる。ふと思いついたその考えは、今の私にとって何より甘い誘惑のように思えた。
最初のコメントを投稿しよう!