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「あのね、おばあちゃんにちとせの話したら、うらやましいわって言ってたの! おばあちゃんは、かみさまに会ったことないって!」
「え。参ったなぁ……話しちゃったんだ」
お茶をごくりと飲み込んだところで、ひかりの言葉に少し動揺する。こうして人間と話すことでさえ本来ならば禁じられているのだ。ひかりのような幼子であればいいかと勝手に考えていたけれど、これ以上話が広まってしまうのは不都合である。
「えっ……だめなの?」
「うーん……そうだね。まあ、もう言っちゃったことは仕方ないけど。こうやって僕と遊んだこと、他の人に言ってはいけないよ。僕とひかりだけの、秘密だからね」
大事な話をするように唇に人差し指を当ててそう言うと、ひかりは真面目な顔でこくりと頷いた。
おばあちゃんに言っちゃった、とのことだが、きっと子供の言うことだと思って信じてはいないだろう。こうして菓子を持たせているあたり、同年代の友達と遊んでいると思っているに違いない。
「ねえちとせ、こんどは何がたべたい? ひかりね、ちょっとだけならお料理できるから、ちとせの食べたいもの作ってあげる!」
「へえ、それはすごいねぇ。茹でたうどんも作れる?」
「うどんは……つくれない……」
ずっと食べてみたかったものを挙げてみたけれど、ひかりは急にしょぼくれてしまった。千歳の食べたいものを、とは言ったけれど、ひかりが実際に作れるものは限られているらしい。
見るからにへこんでしまったひかりに笑って、そっと頭を撫でてやる。さらさらとした髪は触り心地が良くて、いつまでも触れていたくなった。
「ちとせは、うどんが食べたいの?」
「うん、まあね。神社に奉納されるのは、茹でてない固い麺ばかりだから。でも、ひかりが作ってくれるものならなんでもいいよ」
「ほんと? じゃあひかり、めだまやき作ってくる!」
「……物騒な食べ物だねぇ。何の目玉を焼くの?」
「あはは、違うよ! たまごを割って、めだまみたいに焼くの! ひかり、いつもおかあさんと作ってるから!」
そういうことか、と納得すると、ひかりも嬉しそうに頷いた。
その笑顔を「可愛い」と思った自分に驚きながら、楽しそうにいろんな話をするひかりを、僕は飽きもせずにいつまでも撫でていた。
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