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訝しむような視線を向けると、女神は「本当だ」と念押しした。嘘や冗談を嫌う彼女の性質は知っているから、僕はその言葉を信じざるを得なくなる。
「……過去にも、お前のように一人の人間に拘泥する浅はかな神がいた。しかし、お前も知るように人間は業の深い生き物だ。神でさえ簡単に裏切りおる」
「……でも、ひかりは」
「お前がその子供に執着する理由など知らぬが、よく考えろ。お前自身の存在すら危うくなるようなことは、努々すまいぞ」
どういう意味かと問う前に、女神は既に姿を消していた。しんと静まった神域には、もう虫の音しか聞こえない。
一人立ち上がり服に付いた土埃を払いながら、僕は女神が言い残していった言葉を思い返した。
これ以上僕と一緒にいたら、ひかりは親にも感知されなくなる。つまり、人間でなくなるというわけだ。
そして、このままひかりに執着し続けると、僕自身の存在すら消えかねない。そういう意味だろう。
「……そんなの、どうだっていいよ」
でも、女神の言葉はどれも僕を止める杭にはなり得なかった。
ひかりは僕の傍にいればいい。あんな風に幼いひかりに手をあげるような親になど、渡してやるものか。
そして、ひかりが手に入らないのなら、僕が存在し続ける意味もない。ひかりに触れられないのなら、消えたとしても何の心残りもない。
あとは、ひかりの意志次第だ。
そして僕は、また社殿の中でひかりが来るのを待った。ひかりはきっと僕を選んでくれると信じて疑わないまま、彼女が来るのをひたすら待ち続けた。
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