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「ちとせー! ちとせ、どこー!?」
その声が聞こえたとき、僕は胸の底から沸き起こってくる喜びを堪えきれなかった。
すぐに起き上がって社殿の扉を開け放つと、意外なことに外は暗闇に包まれていた。月の位置を見る限り、亥の刻あたりだ。
そして朽ちかけた鳥居の下には、寝間着姿のまま、今にも泣きそうな顔をしているひかりがいた。
「ちとせ、いたっ!」
「もちろんいるよ。おいで、ひかり」
名を呼ぶとひかりは嬉しそうに駆け寄ってきて、僕はその体をしっかりと受け止めた。相変わらず温かいその体はやっぱり愛おしくて、離してなるものかという思いを強くする。
「あのね、ひかり、もうここにきちゃいけないって言われたの。おとうさんとおかあさんに」
「うん、知ってるよ。でも、来てくれたんだ」
「うん! だってひかり、ちとせといっしょにいたいもん」
ひかりの様子を見る限り、どうやら親の目を盗んで家を抜け出してきたらしい。やっぱり、親より自分を選んでくれたのだと思うとさらに喜びが込み上げてくる。
きっとひかりは、何よりも僕と共にいることを選んでくれる。そんな自信を得た僕は、ひかりの体を強く抱きしめたまま問いかけた。
「ねえ、ひかり。このまま、ずっと僕と一緒にいよう。そうしたら、ひかりはお父さんお母さんから見えなくなるんだって。ずっとここにいても、誰にも叱られないよ」
「え……? どういうこと?」
「うーんとね、ひかりも神様みたいな存在になるんだよ。他の人間には見えない。だからどこで何をしようが、誰も文句を言ってこないんだ」
ひかりにも分かるように丁寧にそう教えると、彼女の顔は見るからに曇っていった。てっきり二つ返事で「そうしよう」と言ってもらえるとばかり思っていた僕は、思わぬひかりの反応に困惑する。
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