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「え……ひかり、嬉しくないの? ずっと、僕と一緒にいられるんだよ?」
「それは、うれしい……でも、おとうさんとおかあさんに、もうあえないの?」
「会えるよ。ただ、お父さんお母さんからひかりは見えないってだけ」
それだけだよ、と優しく言っても、ひかりは笑顔を見せてはくれなかった。どうしたのかと思ってひかりの言葉を待つと、眉を下げながらおずおずと口を開く。
「ちとせといっしょにいたい、けど、おとうさんおかあさんとも、離れたくない……」
「……どうして? あの人間たちは、ひかりのことを信じようともせずに傷付けるよ。僕は絶対、そんなことしない」
「で、でも、でもね? おとうさんのゲンコツ痛いけど、いつもはやさしいの! おかあさんも、いつもおいしいごはん作ってくれるし、ひかりのこと大すきって言ってくれる」
ひかりは慌てたように両親の良いところをいくつも挙げるけれど、僕には一つも響かなかった。それどころか、思うような言葉を返してくれないひかりに苛立ちすら覚えて、僕は彼女の体をさらに強く抱きすくめて、ある提案をした。
「……分かった。じゃあひかり、こうしようか」
「な、なに……? ちとせ、いたいよ……っ」
「ひかり、一緒に神世に行こう。そうしたら、どこにも属さない半端な存在なんかじゃなく、ひかりも神の端くれになれる。それならいい?」
早口でそう言い募ると、ひかりは不安げな顔で僕を見つめて首を傾げた。なぜ僕を見つめてそんな怯えた顔をするのかと、また苛立ちが募っていく。
「みよ、って、どうやっていくの……?」
「簡単だよ。一度死んで、黄泉に行けばいい。そうしたらすぐに僕が迎えにいくから」
とびきりの笑顔でそう言ったはずなのに、ひかりは真ん丸な目をさらに大きくして、次の瞬間にはぼろぼろと泣き出してしまった。
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