#8 今度こそ

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 でしたと言う前に、市村はさっさと出て行ってしまった。彼の足音が遠ざかり、やっと病室が静かになる。 「普通、病院を見舞った挨拶って、お大事に、じゃないのかな」  尚紀がぼそりとつぶやくと、優理は憮然とした。 「市村さんにそういうことを求めることが間違ってる。あの人は自由人だから」  優理はお菓子の箱を開けると、そこからひとつだけ残ったプリンにスプーンを添え、尚紀の前に置いた。 「一緒に食おうと思っていたのに、市村さんがほとんど食ったせいで……俺の分がなくなっちまった」  ベッドに備えつけた簡易テーブルに頬杖をつき、優理はぷうっと頬を膨らませる。優理という男は、一見理知的でクールな男だが、こと甘いものには目がない。  子供のころの優理は酷い虫歯に悩まされていて、親から「甘いもの禁止令」を出されていた。  だが尚紀が遊びに来るときは、親がたくさんお菓子を準備するので、優理も親の目を盗んでこっそりたっぷりお菓子を食べて、こってり怒られていたのを尚紀は知っている。     
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