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#1 性のマネキン
ここ数年、夏の天気予報では、毎年「異常気象」を伝えている。地球全体が温暖化の影響を受けているからとか、アスファルトで土を覆い固めたせいだとか、散々に言われているが、異常も毎年なら、もう驚きはしない。
もはや熱をかき回すだけの扇風機では暑さを凌げない、サウナと化した築うん十年のボロアパートの二階、西日が容赦なく差し込む角部屋の一室。
そこで水庭尚紀は、布団の上で仰臥する全身刺青の男の股間に顔を埋めていた。
茶色に染めた、耳より少し長めの髪、だが前髪だけは人との接触を避けるかのように長く、彼の顔の半分くらいを隠していた。
痩せて骨ばった身体を包むTシャツとGパンが、暑さと湿度で肌にまとわりつく。不快この上ないが、地球温暖化がもたらす猛暑よりなにより、目の前の男をどうすれば満足させられるか。尚紀はそれだけを考えていた。
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