俺と先輩

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俺と先輩

 三合分の米が炊きあがった炊飯器をもって、三つ隣の部屋を訪ねる。  ノックをして返事は無いけどドアを開けると、本庄先輩がトランクスいっちょでゲームしていた。 「何て格好してるんですか」 「いやまあ、今日って暑く無いか?」 「暑いですけど、せめて半パンはいてくださいよ。見苦しい」 「鍛え抜かれた俺の体のどこが見苦しいというのだ」  そう言って立ち上がり、なんかマッチョなポーズをとって見せる。  高校時代は運動部で鍛えていたか知らないが、大学入ってから運動と縁が切れているのは知っている。  日々の鍛錬怠りまくりの体は、すでに贅肉が付き始めているので実に見苦しい。 「飯、持って帰りますよ?」  俺がそう言って脅すと、先輩は舌打ちを一つして部屋の隅に放り出していた半パンとTシャツを身に着けた。  最初からそうしてください。 「で、飯炊けました」 「んじゃ、サバの水煮缶取ってくれ」 「またですか?」  好きだなぁ。  俺は先輩の部屋の隅にある備蓄箱と呼ばれた親からの仕送り品入れを覗き込んだ。  その中にある水色の缶詰を一つ取って先輩に渡す。  ついでに俺もサンマのかば焼き缶を一つ失敬。 「なんか、中身増えてません?」 「昨日親がなんか送ってきた」 「生もの、入ってました?」 「なんか野菜とか入ってたけど、めんどくせえから冷蔵庫入れた」  捨ててないだけ上出来だ。  口酸っぱく言って来た甲斐がある。  俺は小さな冷蔵庫を開けた。昨日届いたというだけあって、まだ瑞々しい白菜とダイコンと水菜がそこにいた。 「よし、野菜喰いましょう」 「めんどくせえから良いよ」 「ダメです。そうやって不摂生ばっかりしてると、後で困るのは先輩ですからね」 「うるせぇなぁ」 「シーチキン使いますね」 「早くしてくれよ、腹減った」 「すぐできます」  俺は野菜達とシーチキン缶を手に部屋へ戻る。  何しろ先輩の部屋には調理器具が殆ど無いのだ。  そもそもうちのアパートは風呂、トイレ共同でガスも無い。  クーラーもついてない。  今時なんて物件だ、と思うが、まあ家賃が安いので何も言うまい。  電気鍋でも十分料理は出来るし。
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