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「いらっしゃいませぇ」
通路の狭間で品出しをしていた堀越はそう声をかけながら、少し落ち着かない様子で、入ってくるお客さんを見る。
そろそろ、堀越のバイト上がりの時間になる。
つまり、遊佐が来てもいい時間帯だ。
当初全治2ヶ月と言われた堀越だったが、1ヶ月ちょっとで完治して、ようやくコンビニのバイトにも復帰できた。
遊佐の腕の怪我も、まだ包帯こそ取れてはいないけれども、もうほとんど怪我を感じさせない状態になっている。
そして、今日は、金曜の夜だ。
いつも遊佐は、金曜は必ず堀越をお持ち帰りする、から。
なんだかんだで、2ヶ月近く禁欲生活を強いられていたわけで。
期待するなというほうが、無理かもしれない。
自動ドアが来客を告げる間の抜けたチャイム音とともに開いた。
「いらっしゃいませぇ」
堀越は顔を上げて、反射的にまた顔を伏せる。
入ってきた遊佐があまりにもかっこよすぎて、変な期待にソワソワしている自分が恥ずかしくなったのだ。
顔が勝手に紅潮していくのがわかる。
「桔平」
彼の名を呼ぶその声は、相変わらず甘くて。
「どうして隠れる?」
たぶん、赤く染まった堀越の顔を見て、全て見透かしているくせに、近づいてくるそのヒトが甘い甘い声で意地悪く尋ねるから。
「今これ片付けて、仕事上がってくるから、待ってて下さい」
堀越は、品物を片付けるフリをしながら、バックヤードに逃げ込もうとした。
その腕を、がっしりと捕まれる。
「今日は1秒でも早く君を連れて帰りたいから、あまり待たせないでくれ」
耳許にそう囁かれたら、もう。
その後は、どうやって仕事を片付けたのか、全然覚えていない。
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