9.エピローグ

2/3
前へ
/42ページ
次へ
「いらっしゃいませぇ」 通路の狭間で品出しをしていた堀越はそう声をかけながら、少し落ち着かない様子で、入ってくるお客さんを見る。 そろそろ、堀越のバイト上がりの時間になる。 つまり、遊佐が来てもいい時間帯だ。 当初全治2ヶ月と言われた堀越だったが、1ヶ月ちょっとで完治して、ようやくコンビニのバイトにも復帰できた。 遊佐の腕の怪我も、まだ包帯こそ取れてはいないけれども、もうほとんど怪我を感じさせない状態になっている。 そして、今日は、金曜の夜だ。 いつも遊佐は、金曜は必ず堀越をお持ち帰りする、から。 なんだかんだで、2ヶ月近く禁欲生活を強いられていたわけで。 期待するなというほうが、無理かもしれない。 自動ドアが来客を告げる間の抜けたチャイム音とともに開いた。 「いらっしゃいませぇ」 堀越は顔を上げて、反射的にまた顔を伏せる。 入ってきた遊佐があまりにもかっこよすぎて、変な期待にソワソワしている自分が恥ずかしくなったのだ。 顔が勝手に紅潮していくのがわかる。 「桔平」 彼の名を呼ぶその声は、相変わらず甘くて。 「どうして隠れる?」 たぶん、赤く染まった堀越の顔を見て、全て見透かしているくせに、近づいてくるそのヒトが甘い甘い声で意地悪く尋ねるから。 「今これ片付けて、仕事上がってくるから、待ってて下さい」 堀越は、品物を片付けるフリをしながら、バックヤードに逃げ込もうとした。 その腕を、がっしりと捕まれる。 「今日は1秒でも早く君を連れて帰りたいから、あまり待たせないでくれ」 耳許にそう囁かれたら、もう。 その後は、どうやって仕事を片付けたのか、全然覚えていない。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1292人が本棚に入れています
本棚に追加