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堀越は、ぼんやりと目を開けた。
あれ?俺、昼寝……してたんだっけ?
目を開けたはずなのに、視界が半分近く白い布に遮られて、自分がどこにいるのかよくわからない。
身体を起こしてみようとして力を入れたら、あちこちに鋭い痛みが走る。
思わず堀越は、小さく呻いた。
「桔平?気がついたのか?」
こんなときでも背中をゾクリとさせる甘い声がすぐ近くでした。
そして、そっと身体を撫でてくれる感触。
「無理に身体を動かさないほうがいい。肋骨が何本か折れてるそうだから」
「そっか、俺……」
遊佐の名刺を取り返そうとしたら、お金を取り返そうとしたのと勘違いされて、あのカツアゲくんたちにボコボコにされたんだった。
あれ?でも、なんで…
「遊佐さん、なんでここに?」
視界がイマイチなのは、頭にぐるぐる巻かれた包帯が目のすぐ上まであるからだった。
そういえば、顔もずいぶん殴られた気がする。
狭い視界に遊佐の姿を捕らえようと、堀越は痛む頭をゆっくり傾ける。
「桔平」
少し怒ったような遊佐の声が彼の名を呼ぶ。
「無理に動かしたら駄目だと言ってるだろう」
「でも、俺……遊佐さんの顔、見たい」
包帯でミイラみたいになっているから、真っ赤になった顔は遊佐には見られないはず。
堀越の視界に、いつもの遊佐の優しい微笑み…ではなく、真剣な顔もこれまたうっとりするほど絵になる端正なその顔がやっと現れた。
「桔平……頼むから、こんな無茶、もうしないでくれ」
包帯の隙間から、かろうじて表に出ているらしい鼻先を、遊佐の指がそっとそっと撫でてくれた。
「病院から電話がきたとき、心臓が止まるかと思った」
だから、なんで遊佐さんに連絡が?
あちこち痛むから、痛み止めが打たれているのか。
堀越は急に襲ってきた睡魔に、疑問を声にすることもできず、引きずりこまれる。
「こんな名刺に、君の身体を張る価値なんて全くないのに」
遠くでそんな遊佐の声がして、ああそうか、と堀越は納得した。
ずっと遊佐の名刺を握り締めていたから、真っ先にそこに連絡がいくのは当たり前か。
遊佐さん、連絡いったとき、仕事中じゃなかったですか?
俺、迷惑かけてないですよね…
言葉にならなかった問いかけは、薬の誘う夢の中に消えていく。
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