9.エピローグ

3/3
前へ
/42ページ
次へ
マンションに着くなり、シャワーを浴びることも許されず、寝室に雪崩れ込むようにしてベッドの上に押し倒される。 「桔平」 彼の服をやや性急に脱がしながら囁く遊佐の甘い声が、堀越の背中を震わせる。 もう、その震えで、傷が痛むことはない。 だから。 「遊佐さん、もっと」 もっと、呼んで? そう言いたかったのだけれども。 もっと、の意味を取り違えたらしい遊佐が、ぴくりとその完璧な形の眉を動かした。 「どうしてそういう可愛いことを今言うんだ」 ただでさえ、10代のヤリたい盛りの子どもみたいに、全然余裕がないというのに。 「君には私の格好悪いところなんか、何一つ見せたくないのに」 「遊佐さんは、どんな遊佐さんでもかっこいいから、大丈夫」 そう言い終わる前に、唇を塞がれる。 優しさよりも激しさのほうが勝っているような、全てを蹂躙する長いキスをされたら、もう後は。 堀越は、何も考えられなくなる。 ただひたすら、掠れた声で遊佐の名前を呼びながら、そのヒトが与えてくれる快楽の海に溺れるだけ。 背が高いだけが取り柄の平凡だった堀越は。 遊佐忠仁という美しく絶対的な王者の毒に侵されて。 たぶんもう、引き返せないところに迷い込んでしまった。 だから。 この先、きっと彼には平凡な人生なんて待っていないのだ。 それでも、もう。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1292人が本棚に入れています
本棚に追加