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マンションに着くなり、シャワーを浴びることも許されず、寝室に雪崩れ込むようにしてベッドの上に押し倒される。
「桔平」
彼の服をやや性急に脱がしながら囁く遊佐の甘い声が、堀越の背中を震わせる。
もう、その震えで、傷が痛むことはない。
だから。
「遊佐さん、もっと」
もっと、呼んで?
そう言いたかったのだけれども。
もっと、の意味を取り違えたらしい遊佐が、ぴくりとその完璧な形の眉を動かした。
「どうしてそういう可愛いことを今言うんだ」
ただでさえ、10代のヤリたい盛りの子どもみたいに、全然余裕がないというのに。
「君には私の格好悪いところなんか、何一つ見せたくないのに」
「遊佐さんは、どんな遊佐さんでもかっこいいから、大丈夫」
そう言い終わる前に、唇を塞がれる。
優しさよりも激しさのほうが勝っているような、全てを蹂躙する長いキスをされたら、もう後は。
堀越は、何も考えられなくなる。
ただひたすら、掠れた声で遊佐の名前を呼びながら、そのヒトが与えてくれる快楽の海に溺れるだけ。
背が高いだけが取り柄の平凡だった堀越は。
遊佐忠仁という美しく絶対的な王者の毒に侵されて。
たぶんもう、引き返せないところに迷い込んでしまった。
だから。
この先、きっと彼には平凡な人生なんて待っていないのだ。
それでも、もう。
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