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一体何を考えて完備させた。
「花園もあって、散策するだけでも楽しいわよ」
「個人の部屋を除けば、どこ行っても構わない。ただあちこちに人間とは違う形の式神がいたりするから、それだけ覚えておきなさい」
「うん」
たぶんそんなびっくりしないと思う。なんとなく。
「そういえばお兄ちゃんたち、仕事はいいの?」
「今日は休みもらってるわ。大事な妹の退院ですもの」
「……ありがと」
申し訳ないけどうれしい。
家族を亡くしたあたしを家族として扱ってくれるんだから。
夕ご飯はあたしたちだけだった。さすがにいきなりは驚かせるだろうと、式神たちとは時間分けてくれたらしい。
平気だと思うけどなぁ。
その後、自室でいるものといらないもの分け、必要な物リストアップしてたら女性式神がやってきた。和服着た穏やかな中年女性って外見で、女将さんみたい。ほんとに旅館だな。
「お嬢様、そろそろお風呂に入られますか?」
お嬢様。
「柄じゃないんで、その呼び名はちょっと……」
「では、何とお呼びすれば?」
「普通に桃でいいです」
「分かりました、桃様」
様もいらない。
でも呼び捨てするわけにはいかないって。
「桃、彼女は太陰。桃の専属世話係だ」
「えっ?! そんな、いいよ」
「慣れない環境じゃ心細いだろ。少なくとも、慣れるまではベテランについててもらったほうがいい。なにしろうちは普通とは違う。桃は体のこともあるし、何かあった時に人が傍にいたほうがいいと思うんだ」
原因不明の成長停止。
「う……」
反論できず、しぶしぶ承知した。
でも慣れないよぅ。
太陰さんは、落ち着いた、外見三十代くらいのふくよかなご婦人。いかにもベテランって雰囲気だ。常ににこやか、「おっかさん」って感じ。人をリラックスさせるオーラがハンパない。
「今、貸し切りにしてあります。どうぞごゆっくり」
「わああ、すいません。ありがとうございます」
これもいきなりは厳しいと、専用時間作ってくれたんだ。
六年ぶりに入るお風呂は格別だった。露天風呂とか景色いい。
「……ちょっと気分ほぐれてきたかも」
初めての環境、知らない人だらけはやっぱり緊張する。けっこう気張ってたんだなぁ。
言葉に甘えてゆっくり入らせてもらい、あがると置いてあったパジャマはなぜか着ぐるみタイプ。
猫。フードとしっぽまでついてる。
「…………」
これは誰の趣味だ。
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