1 12才だけどワケあり6才+記憶喪失=イケメン変人義兄4人

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 なんとなく蒼太お兄ちゃんだろうと思った。「カワイイ~」とか言ってキャーキャー言いながら買ってる様が目に浮かぶ。  もし他の兄の趣味だったら張り倒したい。  フリフリ少女趣味のじゃなかっただけマシと思おう。うん(思い込む)。  しかし明日買い出しに行かせてもらおう。  固く決意し、部屋に戻った。 「では、ご用があればお呼びくださいませね」 「あ、はい」  気を遣って独りにしてくれた。 「……何しよ」  ヒマ。  本でも読もうかな。  本棚には少女漫画がぎっしり詰まってる。急きょ、人気あるタイトルを手当たり次第に買ってきたっぽい。あたしが気を紛らわせられるようにって。  優しいなあ。  その中からギャグ漫画ばかりを選んだ。  わざと、単純に馬鹿らしくて笑えるのを取ったんだ。  何も考えたくなかった。小学生なら寝なきゃいけない時間になっても、読み続けてた。 「あはは、おもしろい~」  あえて陽気に笑う。  現実逃避してれば、考えなくて済む。両親が亡くなったことも、自分の体の異常も。親戚とはいえ、引き取られた先での不安も。 「―――」 「桃」  唐突に障子をノックする音がした。  ちなみに普通の障子じゃなくて、中の音や光は遮断する術かかってるらしい。中から外は分かるけど。  声からしてこれは。 「士朗お兄ちゃん?」  開けると士朗お兄ちゃんが立っていた。  寝巻なのか、和服。普段は洋装でもくつろぎたい時は和装なのかな。紺色の無地と地味。 「どしたの」 「また寝られないんだろうと思ってな」  …………。  あたしは言葉を失った。  なんで分かるんだろう。  本当の兄じゃないのに。  優しい人たち。  士朗お兄ちゃんは入ってくると、あたしの頭に手を置いた。 「泣けないんだろう。こういう時は泣きなさい」 「……でも」  あたしはこのうちの子じゃない。  天涯孤独になり、引き取ってもらっただけだ。  わがまま言っちゃいけない。迷惑かけず、ひっそり暮らす。大人になったら恩返しすべき。そう思ってた。  士朗お兄ちゃんは優しく抱きしめてくれた。 「ほら、こうすれば俺に見えない。ためこんだままじゃ、おかしくなるぞ。泣きなさい」 「……っう」  あたしは大声をあげて号泣した。  やっと、思い切り泣けた瞬間だった。
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