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なんとなく蒼太お兄ちゃんだろうと思った。「カワイイ~」とか言ってキャーキャー言いながら買ってる様が目に浮かぶ。
もし他の兄の趣味だったら張り倒したい。
フリフリ少女趣味のじゃなかっただけマシと思おう。うん(思い込む)。
しかし明日買い出しに行かせてもらおう。
固く決意し、部屋に戻った。
「では、ご用があればお呼びくださいませね」
「あ、はい」
気を遣って独りにしてくれた。
「……何しよ」
ヒマ。
本でも読もうかな。
本棚には少女漫画がぎっしり詰まってる。急きょ、人気あるタイトルを手当たり次第に買ってきたっぽい。あたしが気を紛らわせられるようにって。
優しいなあ。
その中からギャグ漫画ばかりを選んだ。
わざと、単純に馬鹿らしくて笑えるのを取ったんだ。
何も考えたくなかった。小学生なら寝なきゃいけない時間になっても、読み続けてた。
「あはは、おもしろい~」
あえて陽気に笑う。
現実逃避してれば、考えなくて済む。両親が亡くなったことも、自分の体の異常も。親戚とはいえ、引き取られた先での不安も。
「―――」
「桃」
唐突に障子をノックする音がした。
ちなみに普通の障子じゃなくて、中の音や光は遮断する術かかってるらしい。中から外は分かるけど。
声からしてこれは。
「士朗お兄ちゃん?」
開けると士朗お兄ちゃんが立っていた。
寝巻なのか、和服。普段は洋装でもくつろぎたい時は和装なのかな。紺色の無地と地味。
「どしたの」
「また寝られないんだろうと思ってな」
…………。
あたしは言葉を失った。
なんで分かるんだろう。
本当の兄じゃないのに。
優しい人たち。
士朗お兄ちゃんは入ってくると、あたしの頭に手を置いた。
「泣けないんだろう。こういう時は泣きなさい」
「……でも」
あたしはこのうちの子じゃない。
天涯孤独になり、引き取ってもらっただけだ。
わがまま言っちゃいけない。迷惑かけず、ひっそり暮らす。大人になったら恩返しすべき。そう思ってた。
士朗お兄ちゃんは優しく抱きしめてくれた。
「ほら、こうすれば俺に見えない。ためこんだままじゃ、おかしくなるぞ。泣きなさい」
「……っう」
あたしは大声をあげて号泣した。
やっと、思い切り泣けた瞬間だった。
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