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六年間意識不明で体の成長も停止、本当の年齢は12だってことは伏せた。
言わなくていいこともある。
ただ、孤児だって明かしたことは驚かれた。
「あー、事実なんで。家族のこと何かの拍子に聞かれても話せないんで、先に言っといただけで。気にしないでねー」
あっはっは。
勤めて明るく言った。
学業面では、少レベルは問題なかった。先取学習してたのか、特に苦も無くついてける。
教育熱心な親だったのかも。
……。親……。
物理的に頭を振り、考えを払った。
……最期を見たショックから、あたしは記憶を消した。たぶん今記憶が戻っても、やっぱり耐えられないだろう。
ただでさえ新しい環境に慣れるのに精いっぱいで、他のことまで気が回らない。
だから、考えるな。
意図的に思考を停止させた。
初日は無事終わった。
クラスメートとも話せたよ。人間じゃない子ばっかだったけど。
「応接室まで送ってくわ。道分からないでしょ」
綺子ちゃんが送ってくれた。翠生お兄ちゃんはまだ仕事だもん。
―――さあ、懸案の長兄はいかがかな?
予想通りというか、想定以上というか、ガッカリなのは間違いなかった。
横になって、だらだら漫画読んでる。
どこにあったのよそれ。
「……士朗お兄ちゃん。ここ、うちじゃないんだよ」
苦言を呈する。
「ああ。桃、お帰り」
「お帰りじゃないでしょ。好意でいさせてもらってるのに、なにこれ。本そうしたの」
「ヒマだろうと思って持ってきてた」
私物かよ。
つーか、くつろぎすぎ。
お茶にお菓子まで出してもらって、ほんと申し訳ない。兄に代わって頭下げます。
年の離れた小学生の妹に謝罪させるって兄としてどうなんだ。
綺子ちゃんなんかロコツに軽蔑の眼差し向けてる。
「昔っからこうね。怠け者で自堕落でやる気なし。やればできるくせにやらない」
「俺がやるきある奴じゃまずいんじゃないか」
士朗お兄ちゃんは不思議なこと言った。
「あんたの事情は理解してるわよ」
「そ。俺は『役に立たない愚か者』でいいんだよ」
絢子ちゃんはため息ついた。
「そう見せかけることで生き延びてきたのは知ってるわよ。でももう必要ないし、妹の前でしょう」
士朗お兄ちゃんはのろのろ起き上がって片付けた。
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