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いわくつきアイテムって、やっぱろくでもない。
ホラーもスプラッタも嫌いだ。
「恋人を若い女にとられた上、『ババァ』呼ばわりされてキレ、相手と元恋人を呪いながら描いた。夜、掛け軸から抜け出して襲い、殺したんだと」
女の恨みは恐ろしや。
「その後も持ち主の家に年頃の男女がいると見境なく襲ったため、寺に押しつけられた。そこの僧侶がけっこうな法力持ってて封じたのがこのほど発見された。で、困って処分頼まれたんだよ」
「はあ。……一応聞くけどさ、士朗お兄ちゃんも女性から恨み買ってない?」
念のため聞いてみた。この兄なら、うかつなことして相手の女性怒らせるくらいやってそう。
士朗お兄ちゃんは心底不思議そうだ。
「なんで? まさか」
「ほら、外見はイケメンじゃん。モテるでしょ」
「俺すぐフラれるんだよ。たいてい『ガッカリした』って言われるな」
もうそれがガッカリだ。
怒りすらわかないのね。ダメすぎて脱力するのか。
この兄、結婚できるんだろうかと本気で不安になる。
このままじゃ、蒼太お兄ちゃんしかもらってくれないかも……? 腐女子は喜びそうだね。
「さーて、今回はあいつにするかな」
士朗お兄ちゃんが取り出した呪符から召喚された式神は、なぜかタコだった。
「……タコ?」
「タコ」
ちゅうちゅうタコかいな。
はいー?
見てるとタコは絵の具、じゃなかった血を吸い取った。
ちるちるちるちる~。
掛け軸が真っ白になる。
ぎゅぽんっ。
そして口から墨噴射。あっという間にきれいな山水画が出来上がった。
旅行中らしき男女が小さく描きこまれている。
「体内で浄化し、墨に変換したんだよ。ほら、理想の恋人も加えてやったし、これでもう悪さすることはない。憑りついてた魂魄は冥府に送ろう」
呪文を唱えると空中に魂魄が浮かび上がり、ふっと消えた。
はあ。あ、それで墨吐くタコ式神を召喚したのか。体内で浄化できるんだねぇ。
「元の絵とは変わっちゃったよ」
「芸術的価値はこっちのほうがあるぞ。このタコ式神は生前絵師だったんだ。作品が少なく、値段が高い」
タコ式神が頭を下げた。
「どうもー。いやぁ、私、たくさん絵を描きたかったんですよ。手が足りない、もっといっぱいほしい、もっと描きたかったのにって思ってたんですわぁ。そしたら、願いが叶って死んだ時こんな姿になれましてね!」
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