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翠生はあきれたように腕を組んだ。
「桃さんのご両親の遺産は微々たるものです。ごく普通の家庭ですからね。そのことは六年前に知ってますよ。誰が弁護士と一緒に片付けやら手続きやらしたと思ってるんですか。大体、ケタがおかしいんです。あれだけの大金、関係者ですぐ動かせるのはあなたくらいのものでしょう」
「いくらよ?」
金額を聞いた蒼太と紅介は仰天した。
「マジかよ。そりゃ兄貴にとってはハシタ金だろーけど」
「本当は総資産の四分の一を譲りたいくらいだ。残りはお前らで等分。俺は一銭もいらない」
「贖罪って意味? いらないわよ」
蒼太が鼻息も荒く切り捨てる。
「同感ですね。僕らもいりません。贅沢しようとは思いませんし、自分の食い扶持は自分で稼ぎます」
「オレもいらね。兄貴もさぁ、あのアホどもからの慰謝料だと思っとけば? ま、いくら積まれても受けた仕打ちには足りねーだろうけど」
士朗は無言で空を見上げた。
明るい月が闇夜に浮かんでいた。
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