16人が本棚に入れています
本棚に追加
「桃を放せ変態」
察して入ってきた士朗お兄ちゃんがべりっとひきはがす。
「何ようー。いいじゃないの。愛情表現よ」
「キモイ」
ばっさり言って、あたしを抱き上げる。
「わっ」
高い。
とっさに士朗お兄ちゃんの首にしがみつく。
すごい。床から何センチ。お兄ちゃん背高いもんね。
ぱっと見、170は超えてる。180いってても驚かない。
「桃は俺が連れてく。お前たちは荷物持て」
「ずるいー。アタシも抱っこしたいわぁ」
「そこで自分も、抱っこは抱っこでもお姫様抱っこしてほしいと言い出さないあたり、まだまともだったんですね」
翠生お兄ちゃんのツッコミがすごい。
分かるけど。
「ちょっと翠生、アタシを何だと思ってるのよ」
「おかしい奴だろ。ほら、持ったぜ。行こ」
駐車場にある車に全員乗り込み、出発する。
大勢乗れ、荷物もたっぷり積める、実用重視の国産車庶民向け、だ。金持ちテンプレの外車じゃなかった。
古めかしい街並みを走る。
どの光景も見覚えがない。六年も経てば、結構変わっちゃうだろうけど。
「ねえ、そういえばここ何県?」
士朗お兄ちゃんが運転しながら答える。
「京都府内だ。今は市街地から離れてるとこ」
「京都」
住んでた実感はやはりわかない。
「どうりで古い家が多いはずだね。高い建物もない」
「うち着いたらもっと驚くかもな。なにしろ古いぜー」
数百年前のそのままとか?
まっさかー。
まさかじゃなかった。
着いたのは、いつの時代のかというお屋敷。平安時代って言われても驚かない。重要文化財認定されてそう。
ずっと向こうまで続いてる塀は終わりが見えない。
とはいえ現代風にアップデートされてるのか、門のとこに警備会社のマークが。監視カメラもあったわ。
ギギギギギ―と開いた門を車のままくぐり、中に停める。
降りると、庭が広がっていた。洋風じゃなく純和風庭園。
どこの城の中だ。
城って言っても、日本の城ね。ナチュラルにそこらへんからお殿様出てきそう。
向こうの大きな池(池?湖?)には橋がかかってる。あ、コイがはねた。しかしなにも起こらない。
もうぽかーんとするしかなかった。
「どうしました、桃さん?」
「えーと、そのー。あまりの広さに驚いて。うち、ひょっとしなくてもお金持ち?」
これで違うって返答はないな。
「ただ古くからあるというだけですよ」
最初のコメントを投稿しよう!