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紅介お兄ちゃんが蒼太お兄ちゃんを肘でつつく。
「あらー? かわいいじゃない。これでも抑えたのよ?」
……?
会話がおかしい。
室内を一回りしてみたら、もう一つおかしな点に気付いた。
どれも新しいんだ。
六年間使ってなかったら、ホコリが積もっててもおかしくない。掃除くらいさすがにさせてたとしても、あきらかに新品ばかりだ。
……それに、この部屋。この屋敷。
記憶はなくても断言できた。
あたしはここに来たことはない。
だいいち、考えてもみてよ。六年間眠ってた? 鏡で見たあたしは確実に十歳いってない。小学校低学年だ。
てことは、最高でも二歳かそこらでこん睡状態になったはず。
なのになぜこんなしゃべれるし、難しいこと考えられるの……?
「―――」
体中の血が冷えるのを感じた。ゆっくり振り返る。
ずっと感じていた違和感の正体。
この人たちはあたしの兄なんかじゃない。
拳を握りしめ、彼らを見上げた。
「あなたたち―――誰? あたしはここに住んでたことはない。妹でもない。そうよね?」
四人の顔が強張った。
やっぱり間違ってなかった。
「……記憶が戻ったのか?」
あたしは首を横に振る。
「ううん。でも分かる」
「そうか……」
士朗お兄ちゃんは安心したように、けどどこか残念そうに息を吐いた。
蒼太お兄ちゃんが聞く。
「どうするの?」
「言うしかないだろ」
「正気ですか」
「いいのかよ」
「……俺に任せろ」
士朗お兄ちゃんは―――便宜上まだそう呼ぶことにする―――近づき、腰を下ろして目線を合わせた。
あたしは逃げずに黙っていた。
こんな時でもなお、この人は信頼できるという確信があった。
「嘘ついて悪かった。混乱してるお前をこれ以上パニクらせないためだったんだ。本当のことを知りたいなら教えてやる」
「……知りたい」
明確に解凍すれば、士朗お兄ちゃんは一度目を閉じ、再び開けて話し出した。
「桃の言う通り、俺たちは兄妹じゃなかった。というか、これからそうなるはずだったんだ」
「これから?」
「比良坂の家系は特殊で、跡取りを支えるため、分家から優秀な子を集めて一緒に育ててた。親元から離し、小さい頃から英才教育を施し、後継者の助けになるために」
じゃ、あたしは。
「あたしもその一人?」
「そうだ」
「士朗お兄ちゃんたちも?」
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